就業規則の誤解を解こう③|ウィンベル式無敵の労務管理マガジンVol.16
就業規則の誤解を解こう
-その3-
みなさん、こんにちは。弁護士の山口です。
本題に入る前に少しお知らせをさせてください。
この度、ウィンベル法律事務所のホームページが完成しました。こちらでも定期的にコラムを投稿しています。
現在は問題社員対策を連載していますので、ぜひ興味のある方はこちらもご覧ください。
コラムを読む前回、就業規則を作る側・運用する側の視点と裁判所の視点にズレがあるという話の中で、裁判所は「合理的限定解釈」をするよという話をさせていただきました。(前回の記事はこちら)
本日は、「権利濫用法理」についてお伝えしたいと思います。
この言葉は解雇の場面で聞いたことある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
たとえば、就業規則に
<懲戒解雇事由>
職務上の指示命令に従わず、職場の秩序を乱したとき
と定めていたとしましょう。
この場合、言うことを聞かない従業員を社長が即刻解雇すると、その後の裁判(従業員から「この解雇は無効だ!」と訴えられる。)で、解雇は無効だという判断がおそらく出るでしょう。
就業規則の規定によると、会社には、言うことを聞かない従業員を懲戒解雇にする権利があると書かれています。
だから社長は、その権利を行使して従業員をクビにしたわけです。
それにもかかわらず、後から「その解雇はダメです」と言われるわけです。
この時、裁判所は「権利濫用法理」を使って、解雇は無効だと言います。
つまり、確かに、会社には従業員を解雇する権利はあるが、その結果従業員が受ける不利益(クビになること)は大きいし、その程度で解雇するのは常識的にどうなのと思われる場合には、権利を持っていたとしてもそれを濫用してはいけないと裁判所がその権利行使を制限します。
これが権利濫用法理です。
解雇の場面においては、
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効とする。
という考えです。
このように、就業規則に規定がされた権利であっても、裁判所の解釈によりその権利が制限されることが多々あります。
解雇以外の場面でも、配転命令権や降格命令権などもこの権利濫用法理で会社の権利が制限されます。
このように、裁判所の権利濫用法理という考えにより、就業規則の規定とは異なるルールが設定されることになりますので、就業規則の作成・運用の際には、その権利に対して、裁判所が権利濫用法理を適用していないかを確認して、適用しているのであれば、その内容を適切に就業規則に反映させる必要があります。
■一度自社の就業規則を見直してみてはいかがでしょうか?
いかがでしたか?
これまで3回に渡り、就業規則でよくある誤解について話をしてきました。
就業規則の記載とおりに運用していても、問題になるケースがあることを知っていただければと思います。
加えて、裁判所が使う「本当のルール」を理解して、そのルールに基づいて就業規則を定めることを意識していただければと思います。
就業規則の記載と「本当のルール」のズレによって生じてしまう紛争も多々あります。
余計なトラブルを防止し、従業員が安心して働ける環境を整備するためにも、ぜひ一度自社の就業規則を見直してみてはいかがでしょうか?
本日は以上です。
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