就業規則の誤解を解こう②|ウィンベル式無敵の労務管理マガジンVol.15
就業規則の誤解を解こう
-その2-
みなさん、こんにちは。弁護士の山口です。
本題に入る前に少しお知らせをさせてください。
この度、ウィンベル法律事務所のホームページが完成しました。こちらでも定期的にコラムを投稿しています。
現在は問題社員対策を連載していますので、ぜひ興味のある方はこちらもご覧ください。
コラムを読むさて、本題です。
前回、就業規則の記載によって誤解を招き労働トラブルを招くことがあるよという話をしました。
今回は、その原因について、私なりの考えをお伝えしたいと思います。
前回の話を簡単にまとめると、就業規則に記載された通りの運用をしたにもかかわらず、裁判ではその運用はダメですと言われることがあるということでした。
このような就業規則と裁判所との認識のズレはなぜ生じるのでしょうか?
私は、就業規則を作成する側の視点と裁判所の視点がズレているからだと思っています。
労働事件で紛争解決のためによく裁判所が使うテクニックが2つあります。
これを知っておくだけでも、就業規則の作成や運用の場面でとても応用が効きます。
今回は1つ目として、「合理的限定解釈」についてお伝えします。
何だこの七文字熟語は?と思われるかも知れませんが、そんなに難しくはありませんのでご安心ください。
たとえば、就業規則にこんなルールがあったとしましょう。
<懲戒事由>
会社に許可なく、公職もしくは会社外の職務に就き、又は事業を営むなどの行為
兼業副業を禁止する規定ですね。
この規定に基づいて、無許可での副業が発覚した従業員に懲戒処分を課した場合、どうなるでしょうか?
普通に考えると、この規定に基づいて懲戒処分できるでしょ?となると思います。
しかし、場合によっては、裁判所が懲戒処分を無効とする判断をする場合があります。
どういうことかというと、裁判所はこのように考えます。
これが権利濫用法理です。
解雇の場面においては、
そもそも、会社が兼業副業を許可制にしているのってなぜだっけ?
それは、会社の業務に集中して欲しいからだよな。
兼業副業によって、本業である会社の仕事に支障が出ては困るからってことだよね。
ということは、本業から離れて(勤務時間外に)、本業に支障が出ない程度に兼業副業に勤しんでも問題ないよね。
そもそも、本業から離れた時間は、本人のプライベートな時間で自由に使っていいんだから。
それを会社が拘束することはできないよね?
こう考えるのが合理的だな。
てことで、今回の懲戒事由は、以下のように限定的に解釈します。
つまり、従業員が会社に対する労務提供に特段の支障を生じさせない程度・態様の兼業副業については、兼業副業を禁止した(許可制にした)規定には違反しないこととします。
ようは、懲戒事由を以下のように限定する形で解釈する訳です。
<懲戒事由>
会社に許可なく、公職もしくは会社外の職務に就き、又は事業を営むなどの行為により、会社の業務に支障を来たしたとき
これが、裁判所がよく使う「合理的限定解釈」です。
特に、服務規律、懲戒や休職制度に関する就業規則の解釈で裁判所が用いる解釈手法です。
就業規則を作成・運用する場合は、この合理的限定解釈が過去の裁判例でなされていないかを確認した上で、もしなされていた場合は、その解釈内容を具体的に条項に反映したり、運用の際に注意をする必要が出てきます。
次回は、裁判所がよく使うテクニックの2つ目をお伝えします。
お楽しみに。
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